ギャップのお楽しみ
「別にしてないよーだ」
「なあ、それよりホントの所さ、太田部長っ
てどっちなの?」
「はあ?」
咄嗟にとぼけた声を出す。
たぶん翔くんが聞きたいのは、厳しい部長の口調がオネエだからで。
「そんなのコッチに決まってんじゃんか」
北川くんが右手を立てて口に当てた。
「えっと……」
「それよりも、里美はどうして手下になった
の?」
「手下って…」
環、あんたそんな可愛い顔でしれっと…
「ほら、吐いちゃいなさいよ」
「実穂、顔怖いから」
いつの間にかみんなの視線が私に集中してた。
言いたいけど言えない。
そもそも部長がいつからあの口調なのか知らないけれど……
配属されてすぐの頃、昔はかなりのイケメンさんだったんだろうなーって部長の顔を見ているうちに、父親の昔のモデル仲間の一人だったと気づいてしまったのが、私の不幸の始まりだった。
父親が未だにモデルの仕事をしながら人気のカフェを経営してるなんて、心を許した親友にさえ口が避けても言いたくない私と、主に女避け(その他諸々面倒臭いから)の為にあんな言葉使いをしている部長。
(お互い内緒だ)って利害関係は一致したけど
『響(ひびき)の娘なら俺が立派な社会人にしてやる!』って、ありがたくないオマケがついたせいで、どの課の新人よりも私の仕事はハードになっている。
「どうしてかな……」
得意のスマイルでえへへと誤魔化そうにも
この仲間に通用するわけがなかった。
「飲みが足りない?」
「ちょっと、真優ちんまで……」
「私にはわか……」
わからないと言おうとしたら、どこからか
ボソッと誰かが呟いた。