ギャップのお楽しみ
「そんなの実力だろ」
『里美に限って』とか『そんなはずない』とか失礼な野次や笑いが飛び交う中、一番驚いたのは私だ。
斜め向かいの席に座る黒縁眼鏡の冴えない男を指差しながら、椅子から立ち上がった。
「あんた誰?!」
皆のお喋りが一斉に笑いに変わった。
「あははっ里美、誰って酷いな同期に!」
北川くんはお腹を抱えて笑ってる。
「ど、同期?!」
このなんだかパッとしない風貌の男が同期?
「とりあえず座れば?」
黒縁眼鏡に言われて、ムッとしながら腰を下ろした。
「北川、笑いすぎだ」
「そうよ、つい最近まで北川くんも知らなか
ったくせに」
環に腕を叩かれて、北川くんはようやく笑いを引っ込めた。
「わりぃわりぃ」
「里美、彼は田辺くん。先月まで横浜支店に
いたんだけど、調査部の佐々木さんが入院
して急遽、代わりに本社に呼ばれたの」
って、環が情報をくれたけど。
「こんな人研修の時いた?」
救いを求めるように、のんびり屋で天然気味の真優ちんを見る。
「いなかったのよねー」
真優ちんがニコニコしてる。
なに?事情を飲み込めてないの私だけ?!
暫く参加しない間に、環と翔くんは付き合い出すし、真優ちんは眼鏡王子をゲットしてるし…
挙げ句、この冴えない同期が仲間になってるわけ?!
「インフルエンザで欠席してたんだってさ」
実穂が何故か『乾杯』と黒縁眼鏡のグラスに自分のグラスを当てた。
「インフルエンザ……」
タイミングの悪い男ね…
「この春は飼い猫が死んだり、急にアパート を立ち退かなければならなかったり、他に
も色々…不幸続きだったんだ」
「うわっ…」
確かに、その顔は幸薄そうに見えなくもないっていうか表情がよくわかんない。
とりあえず鬱陶しそうなその長い前髪切った方がいいよ、会社よく受かったね。