ギャップのお楽しみ
「不幸自慢はとりあえず置いといて。
田辺、里美の実力って何だよ」
北川くん、それって普通に失礼じゃない?
「太田部長が見込んだから、新人なのに仕事
回されてコキ使われてんだろ?
しかも今のところ根を上げずにこなしてる
みたいだしさ」
思いがけない言葉に胸が熱くなった。
「確かにそうよね」
環が深く頷いている。
「この中じゃ一番仕事してんじゃないの?
俺、本社来てこの同期飲みで会うの初めて
だし」
なによ黒縁眼鏡、冴えない風貌のくせに良いこと言うじゃない!
「うーん、悔しいけどそうかも」
「里美ちゃんいっつも残業してるもんねー」
実穂も真優ちんも納得してる。
「頑張ってるんだね」
環によしよしって頭を撫でられた。
急に努力が報われた気がして、思わず涙ぐみそうになった。
親の遺伝子のお陰でそれなりのパーツの顔立ちで、しかもそれを更に上手く引き立てる技や服装を教わっているから派手に見られるのはわかってる。
でも可愛い格好もメイクもネイルも大好きだし、それが私。
周りからお気楽な腰掛けOLだと見られる事になっても気にしないと決めていた。
だけどこの会社を選んだのは、本当に今の仕事がしたかったから。
研修中に組んだグループの仲間に無能に見られて、課題について私には何も相談されなかった時は、悔しくて家に帰ってから泣いたっけ。
「なによ、みんな今ごろ気づいたわけ?!」
跳び跳ねてしまいそうな嬉しい気持ちを
サワーを飲んで誤魔化す。
「俺も松岡に負けてらんねーな」
「だな。ごめんな、里美」
「翔くんも北川くんもやめてよ」
「だけどさ、部長のコッチは本当だろ?」
もう!北川くん!
せっかく気分が良かったのに。
「それは……」
「別にどっちでもいいじゃん。北川ってそっ
ちなの?だから興味あるとか?」
黒縁眼鏡…じゃなかった田辺くんが北川くんに『ごめん、俺は無理』って言って翔くんと席を変わろうとする。
「ば、馬鹿!ちげーよ」
ドッと笑いが起きて、みんなが北川くんをからかったり囃し立てたりしているうちに、
話題が別のものに変わっていった。