ギャップのお楽しみ
「ちょっと、何するのよ!」
「俺たち会ったの今日が初めてじゃないよ」
「えっ?!」
「説明会の日、隣に座った俺に前髪切った方
がいいってアドバイスした」
「覚えてない」
覚えてないけど、第一印象は変わらなかったんだって思ったら少し笑えた。
「だろうな……それと入社してすぐ。
所長が忘れた会議の資料を本社に届けに来
た時、会議室がわからなくて迷ってたら
教えてくれた」
「そんなことあった?」
うっすらだけどそんな事があったかもと記憶の糸を手繰り寄せた。
「それから…」
「まだあるの?!私、そんなに物覚え悪くな
いはずなんだけど…」
いくら私好みのイケメンじゃないからって言
っても、この人の風貌はそれなりに印象に残るはずだと思うんだけど。
「太田部長の案件だからって、先輩から仕事
押し付けられて残業してるのをこのひと月
で何度も見た」
「それは……」
「半分はやっかみからくる嫌がらせだろ?」
「そんなこと……」
「俺さ、不幸続きの挙げ句入社して半年で
異動ってどんだけツイてないんだって、
正直かなり腐ってたんだ。支店の仕事を
やっと覚えてきた所だったのに、また一か
ら新しいことを覚えなきゃならないのにも
ウンザリしてた」
「それはしんどかったね。何か手伝える事が
あれば言ってよ」
「そう……おまえ本当にいい女なのにな」
フッて彼の表情が甘く緩んだ。
「なに言ってるのよ…」
「愚痴る前に仕事しろ」
「やだ!聞いてたの?!」
それは残業中デスクに溜まった書類を見るたびに、独り言のように私が呟いている言葉。
「その通りだって思った」
「田辺くん……」
「俺は知ってるよ。その可愛い顔をメイクで
隠した鎧の下は根性のあるがんばり屋だっ
てさ。興味があるのはイケメンじゃなくて
仕事なんだって事も」
「それは……」
買い被り過ぎよ、
イケメンにだって興味はあるんだから。