新選組異聞 幕末桜伝
そっと壁から顔を覗かせると、そこには浪人と思(おぼ)しき男が三人こそこそと話し込んでいた。


それからは、一瞬の出来事。瞬きする時間すら与えない程だった。


浪人達が、何だお前と声を上げた刹那、三人の間を抜くと同時に、血しぶきが飛ぶ。男達は、ぴくりとも動かない。その様子を冷たい氷の様な目で見下ろすさくらを月灯りだけが照らしていた。

土方の背がぞくりと震える。


まるで、死神。

返り血さえ浴びていないさくらの金色の髪が、月に照らされ怪しげに輝いていた。見なかった事にできないだろうかと土方は一瞬思ったが、すぐに頭を左右に振り、意を決して、さくらの名前を呼んだ。


「さくら。てめェ、こんな所で何やってる。」

突然話しかけたにも関わらず、さくらは表情を変える事なく答えた。


「何って、始末しただけですよ。それが壬生浪士組の仕事でしょう?私はどこの隊にも属していない。だったら、自分の好きなようにやっていいって事ですよね?私はそう判断しましたけど、違いましたか。

近藤局長。」

土方が声をかけた事で、別の場所に待機していた近藤と山南も駆けつけていた。さくらは、土方ではなく、局長である近藤に訴える。自分は壬生浪士組の仕事を全うしただけだと。


「さくら。私は、お前を人斬りにする為にここへ連れてきた訳ではない。お前が、こんな事をする必要はないんだ…。」

近藤の声は震え、まるで泣いているようだった。

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