新選組異聞 幕末桜伝
「両親を、目の前で殺されただけです。在り来たりな理由ですよ。

…これで、満足ですか?」

何でもない事のように言い放つ。芹沢はさくらの本心を探ったが、彼女の瞳は哀しみに揺れる事もなく、怒りに震える訳でもなく、ただ、無しか映していなかった。

目の前で殺された“だけ”。

恐らく、それだけではないと直感的に思ったが、これ以上問い詰めるのは酷だと思い、喉から出かけている質問を飲み込んだ。


「本当は、お前をこっち側に引き入れてやろうと思ってきたんだが、お前は、芹沢派とか近藤派とか、どうでもいいんだろうな。

…まぁ、俺もそこまで、この地位に固執してる訳でもねぇが、ただ気に入った奴は側に置いておきてぇタチなんだよ。難しい事は言わねぇ、とりあえず、俺はお前が気に入ったんだ。今がつまんねぇなら、いつでも来な。待ってるからよ。」

そう言って立ち上がると芹沢は、子供をあやすかのようにぽんぽんと頭を撫でて、その場を後にした。


これが、さくらが芹沢鴨と関わるようになったきっかけだった。

芹沢が近藤一派に闇討ちされるまでの、わずかな期間の出来事。

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