新選組異聞 幕末桜伝
「よぉ、来たか。」

「私、別に芹沢派になるつもりなんてありませんよ。ただ、つまんないんです。斬っても斬っても、満たされない。あなたとなら、人を斬る以外にもおもしろいと思える事、見つけられそうな気がする。」

近藤の元で刀を振りたいと思った。身よりのないさくらを受け入れ、剣を教えてくれた近藤の為に、この力を使いたいと思った。だが、さくらは京に来て、近藤が、壬生浪士組という組織が、自分を必要としていないという事実を嫌という程、知る。

実力行使により、渋々、立場のよく解らない総長という肩書きを与えはしたが、恐らく、今までと同じように、さくらに任務を言い渡す事はないだろう。ここで、飼い殺しにするつもりなのだ。


それならば、例えさくらの取る行動が近藤を窮地に追いつめる事になったとしても、芹沢の下で刀を振ろうと、さくらは心を決めた。


幸い、芹沢を毛嫌いする土方とは違い、この男の事が嫌いではない。それは、自分と全く違う人種だからというのもあるが、とにかく解りやすいのだ。気に入った奴は側に置いておきたい。それだけの理由で、さくらを受け入れようとする度量の深さにも、近藤とは違う魅力を感じる。

自分を隠して、偽って、誰にも心を触れさせないようにして生きているさくらにとっては、憧れとも言える生き方だった。
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