新選組異聞 幕末桜伝
「お言葉ですが、土方副長。いくら私といえども、一度に五人に襲いかかられれば、一瞬で止めを刺す他ありません。それとも、例え深手を負ってでも、命を落としてでも、生け捕りにした方がよかったんですか?

相手は私を殺すつもりでした。判断を誤れば、私が死んでしまいます。あれは、防ぎようのない出来事だった。

…私の行動で、新選組が恨みを買ってしまった事は申し訳なかったと思っています。けれど、それ以外で謝罪するつもりはありません。話がそれだけなら、これで失礼します。」

深々と礼をして、土方の制止も聞かずにさくらはその場を立ち去った。後に残された土方は、ぼりぼりと頭をかきながら、吸っていた煙管(きせる)を、盆に投げ入れ、畳を殴る。

苛立ちを発散させるかのように。



「あいつは、何も解っちゃいねェ。」

「トシ。さくらにはさくらの考えがあるさ。それに、あいつは強い。心配なのは解るが、あまり口うるさく言っても離れていくだけだぞ。」

「強い…ね。」

近藤の言葉に違和感を覚えたものの、土方はそれ以上は何も言わず、また煙管(きせる)を口に銜えた。表情を失くしたさくらを見る度に、あの日の泣き顔を思い出す。まだ子供のくせに、感情を殺して必死で大人であろうとしているさくらの姿は、土方にとってはとても痛々しく見えた。刀を振るう事で自我を保っているような、そんな気さえする。

土方は、例え口うるさいと疎まれても、まだ何も知らない子供に物事を教えてやるのは大人である自分の仕事だと割り切り、感情を殺したさくらと向き合っていこうと心に決めていた。

< 3 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop