新選組異聞 幕末桜伝
「さくら!」
「…総司。」

土方の部屋を出て自室へ向かう途中で、庭で素振りをしていた沖田に声をかけられる。


「また、土方さんに怒られたんだって?」

沖田は心配そうな顔で、さくらに駆け寄った。さくらは沖田の問いには答えず、早足で再び歩き始める。それが、付いて来いという無言の合図なのだと解っている為、すぐに沖田もその後を追った。


さくらの部屋は、女性という事もあってか、屯所の奥まった場所にあり、沖田が声をかけた場所からは、かなり離れていたが、向かう間、一言も発する事無く、部屋の前につくと、扉を開け、沖田を招きいれた。

「さくら、大丈夫?」

「うん。慣れてるから、大丈夫。心配してくれてありがとう。」

そう言ってさくらは、力無い笑顔を見せる。


さくらが笑顔を見せるのは、限られた人物の前だけだった。幼なじみである新選組 一番隊隊長 沖田総司はその中の一人で、喜怒哀楽がないと言われるさくらの様々な表情を知っている、唯一の人物である。

先ほどのように極力沖田と人前で話さないようにするのは、他の隊士に素の自分を見られないようにする為。さくらは、心を許した人物以外には、鋼鉄の壁を作り、浪士のみならず、隊士たちからも、氷のような目、人殺しのような目をしていると、恐れられていた。
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