新選組異聞 幕末桜伝
「総司。昨日私が斬った五人、血の匂いがしたんだ。」

「血の、匂い…?」

「誰を斬ったのかは解らないけど、ろくな連中じゃないのは確か。どうせ捕まえて帰ったとしてもきっと何の情報も持ってない。私が斬ったあいつらは、刀を振り回して力ずくで弱い者を従わそうとするような、くだらない人間。

…斬るしか、なかった。」


とことん不器用な人間だと、沖田は思った。


さくらは、弱者が傷つけられる事を何よりも嫌う。だけどそれを決して人前には見せない。さくら自身も内外から容赦なく不逞の輩を斬り殺す、人斬りだと恐れられている事は知っていたが、弁明して本心を理解してもらおうとはしなかった。

さくらの心が誰よりも優しい事を、沖田は知っている。隊士の間からも誤解されている事に心を痛めていたが、沖田にはどうする事もできなかった。


罪なき命を守れるなら、自分がどう思われようと構わない。


その姿勢は、近藤の為なら我が身を犠牲にする事も厭わない土方と似ていると、沖田は思った。お互いに、認めようとはしないだろうけど。
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