新選組異聞 幕末桜伝
「…そうか。さくらがそんな事を。」

「はい。一応、局長と土方さんには伝えておくべきかと思って。」

沖田は、さくらから昨夜の話しを聞いた後すぐに、近藤と土方の元へ向かい、一部始終を話して聞かせた。密偵という訳ではないが、さくらは沖田以外に本心を見せる事はない為、必然的に彼女の言葉を代わりに伝えるのは沖田の役目となっている。


「あいつ、何で俺には何も言わねェんだよ。何で、全部自分一人で背負い込もうとするんだ…。」

土方はそう言うと、苛立ったように壁を拳で殴った。


どんという音が部屋中に響く。


「さくらは、土方さんの事を信用していない訳ではないと思います。ただ、どうしていいか解らないんです。

さくらは人に弱みを見せる事を極端に嫌う。だけど土方さんは、さくらの一番弱い部分を知っています。そこに触れられたら、さくらはきっと刀を握れなくなる。戦えなくなる。だから、特に土方さんには、弱音も本音も、吐かないようにしているんだと思います。」

「はっ、んな事俺に関係あるかよ。あいつの内面にまで構ってられねェ。俺ァただ、近藤さんすら謀ろうとする根性が気に食わねェんだ。どうしていいか解らねェだァ?ガキじゃあるめェし。思った事そのまま伝えりゃいいんだよ。胸糞悪ィ。」

土方は一通り怒鳴り散らした後、部屋に近藤と沖田を残して出て行った。恐らくさくらの所へ向かったのだろう。


「…あいつも、不器用な奴だからなぁ。」

そう言って、近藤はため息をつく。


「そうですね。不器用同士、出てくる言葉は火に油を注ぐものばかり。ちょっと心配なんで、様子見てきますよ。あの調子じゃ、さくらを殴りかねない。」

「よろしく頼む、総司。」

沖田は腰を上げる。

そしてすぐに、さくらの部屋へ向かった。

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