新選組異聞 幕末桜伝
「今、浪士たちの動きが活発化している。見回りはできるだけ、複数で行った方がいい。」

恐らく土方が言おうとしていたであろう事を、山南が代わりに伝える。


「…足手まといです。それに、私に付いてくる隊士がいるとは思えません。目が合ったら殺されると言われている事、私の耳にも入ってます。これからは、なるべく目立たないように、今まで通り一人で見回りを続けますから。」

山南も、恐らく素直に首を縦に振る訳がないと解っていた。だが、無茶はしないで欲しいと、それだけは伝えておきたかったのだ。


さくらは、新選組随一の剣豪と呼ばれる沖田と肩を並べる程の実力を持つ。腕力はないが、目にも止まらぬ速さで相手の間合いに入り込み、一瞬で急所を捕らえる事から、目が合えば殺されると恐れられていた。

そして、いつしかさくらの髪の色から“金色の死神”と呼ばれるようになり。今では、椿さくらという名よりも、金色の死神という異名の方が広く知れ渡っている。ほとんどのものは、その名を聞くだけで震えあがり逃げ出すと言われている程、浪士たちにとって、金色の死神という名は恐怖の対象となっていた。

そういった背景もあり、本来ならば複数で行動すべき所を、さくらは誰を従えるでもなく、半ば強制的に単独で行っていたのだ。

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