謝罪のプライド
1.苦情を呼びこむ女
「すみません、誰か助けてください」
涙目の彼女は、保留音が流れる受話器を私の方に差し出した。そして、机に突っ伏すと「私ダメです。落ち込んじゃう」などどしおらしく言う。
広い社内の中でも格段に小さく区切られているこのスペース。六つのデスクが向かい合わせに並び、少し離れて部長のデスクが一つ。
私以外は他の電話対応をしながら、目で『なんとかしなよ』と威圧してくる。
はい、分かっていますよ。私がやればいいのでしょう。
私は思わず左隣の席を睨み、「状況は?」と尋ねる。
彼女は、顔もあげないまま聞き取り調査の画面を指さした。
ちゃんと口で言えよ、馬鹿!
仕事に可愛らしさは要らないのよ!
さっと目を通し、息を吸い込んでから電話の保留ボタンを押した。
「大変、お待たせ致し……」
『だからいつまで待たせる気なんだよ。納得いく説明は? 上司を出せって言っただろう?』
「お電話代わりました。私ヘルプデスクの新沼と申します。この度は誠に申し訳有りませんでした」
電話の向こうの男性がすごい剣幕でまくしたててくるので、訳が分からないけどとりあえず謝る。
とにかく落ち着いてくれないと話も聞き出せなさそうだ。
『アンタが上司? また女かよ、男はいないんですかね、アンタのとこの会社には』
不満も露わな声。
ところどころに馬鹿にしたようなため息を混じられるのがすごく堪えるなぁ。
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