謝罪のプライド
会議スペースに一人残された私の心のなかはもうグチャグチャで、変な汗ばかりが出てくる。
「う、そ」
声を出したら視界が潤んだ。
私は慌てて化粧室へ行く。だめだ、会社で泣いちゃ。だけど勝手に出てきて止まらない。
ハンカチを目に当てながら、なんとか呼吸を整えてこみ上げてくるものを無理矢理に飲み込んだ。
ホテルに行ったなんて嘘だ。
でも、美乃里が私に嘘つく必要ってある?
彼女は私が浩生の彼女だとまだ気づいていない。私はそんなことを言ったことは一度もないけど、むしろ応援してもらえてるとさえ思ってるだろう。
それに実際、あの日浩生は翌日の昼まで帰らなかった。スーツのままだったんだから、一度自分のアパートに帰ったってわけでもないだろう。
どこかで休んでいたのは明白で、それが美乃里の言うホテルだったのだとしたら。
「じゃあなんで嘘つくの」
心配するようなことはない、なんて大嘘じゃん。
ホテルに行くなんて裏切りだよ。
それとも、浮気をしても私に悪いなんて思わないの?
私はあなたの何なのよ。
ショックは徐々に苛立ちへと変わっていく。
人前で泣き出さないくらいの平静さを取り戻した後、化粧室をでてヘルプデスクに戻った。
「新沼、どこ行ってたんだ」
「すみません、部長」
「……なんだ? 顔色悪いぞ?」
「大丈夫です」
心配してくれる部長を横目に、机の脇に重なったファイルと次々かかってくる苦情だったり相談だったりする電話に対応した。
こんな状況でも仕事のできる自分にちょっと呆れる。
男の人から見たら、私みたいな女は可愛げないのだろう、きっと。