謝罪のプライド
作業が終わって社に戻ってから、私は研修テキストを読み返した。実際に見た作業と同じこと、違うことをテキストの隅に書き込んでいく。
でもどうしても理解できない。今日は覚えることも多すぎて、忘れてしまったこともある。
「……どうしよう」
気がついたら爪を噛んでいた。不安なときの私の癖。
すでに頭はオーバーフローで、理解できないことに焦っている。不安になってる間に一つでも二つでも覚えられることはあるはずなのに。分かっているのに落ち着くことも出来ない。
焦りながらテキストを何ページもめくった。そのうちに誰かの手が肩に乗せられて、一瞬違う世界に来たような感覚になる。振り向くと、九坂さんがいつもの不遜な表情で私を見下ろしている。
「夜ヒマ? メシでもどう?」
「え? ええ、でもあの」
頷きかけたところで、手元のテキストに視線を戻す。
これをしっかり覚えなくちゃ。今のままなら私は役立たずだ。遊んでる暇なんかない。
「すみません。ちゃんと復習しないとまた九坂さんにご迷惑かけるので」
「勉強とかは断る理由にはなんねーな。いいから来いよ。九時には開放してやる」
そう言われては、もう断る文句が出てこない。私は頷いて、彼を見た。
「今日の報告書書いたら俺に見せて。その後出よう」
彼の言葉の通りに、それから報告書をまとめあげる。直しは一度だけで、それも修正箇所を細かく指示してくれたからすぐに終わった。
すでに定時は過ぎ、もう帰った、もしくはまだ出先から戻らないという理由で人も閑散としていた。
「行くぞ。早くしろ」
「はい!」
私は、慌てて荷物をまとめて彼の後について行く。化粧直しする暇さえなかったな、とちょっと残念に思った。