謝罪のプライド

外はすっかり夜の空気になっていた。
街はネオンで明るいけれど、日光の暖かさとは柔らかみが違う。どこかトゲトゲとしていて私はなぜかいつも緊張する。

前を歩く九坂さんは、そんな情緒的なことは何も考えていないのだろう。空気を切り裂くようなスピードで歩いている。歩幅が小さい私は、ついていくのに小走りになるほど。


「九坂さん、どこ行くんですか?」

「んー、イイトコ」

「いいとこってだからどこ!」

「折角だから旨い店に行こうか。奢ってやるから」


彼の魅惑的な笑顔に、私は言葉を無くしてしまった。喉の奥に何かが詰まってしまったような感覚に自然に呼吸が浅くなる。


しばらく歩いて、彼が止まったのは小さな定食屋さんの前だ。昔ながらの庶民のお店という表現が似合いそうなこじんまりとした店構えだ。『かつや』とかかれたのれんをくぐるとき、「ここはカツ丼が旨い」と九坂さんが無愛想に言った。

カウンター席が広く、テーブル席は五席ほどしかなかったけど、運良く小さなテーブル席が空いていて座ることが出来た。九坂さんは私の好みを聞く前にイチオシのカツ丼が注文してしまう。


「酒はいける?」

「はあ、まあ」

「じゃあビールな。おばちゃん、ビール」


九坂さんの声に、五十代くらいの店員さんが苦笑しながらビールの大瓶と冷えたグラスを二つ持ってやってきた。
ついでに、という風におばさんは二つのグラスについでくれる。

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