謝罪のプライド
「酔わせてやろうか」
「もう飲まないよ」
「酒でじゃなくて」
薄暗闇の中、鼓膜をくすぐる低い声に、全身を絡め取られたように動けなくなる。
「言葉で」
体中がゾクゾクする。
そんな今までしたことないような必殺技を出すのはやめてください。
「だから怒るな」
声になるかならないかの『好きだよ』と『愛してる』が私の肌を滑り落ちていく。
全身が熱くて堪らなくて、じっとりと私を見つめる眼差しに全てを暴かれていくような気分。
私も思わず、声にしていった。
「私も……愛してる」
すると彼の動きが一瞬止まる。
「なに?」
「いや?」
彼はクスリと笑うと、私の目元にキスを落とした。
「『アイシテル』は初めて聞いた」
「……そうだっけ」
「態度で分かるけどよ。……言われるのも悪くない」
そうか。
浩生が言葉に出さないと拗ねていたけど、それは私もお互い様だったのか。
「じゃあ、……今日はたくさん言う」
愛の言葉を囁くと、ろうそくに火がぽっと灯るみたいに心の中が暖かく、そして明るくなる。
これから二人で暮らす部屋には、きっと優しい明かりが沢山灯るだろう。
【fin.】