謝罪のプライド
俺は人に振り回されるのは好きじゃない。
だから、最初にその話を聞いた時は心底不満だった。
「俺が面倒見るんですか?」
「そう。今度ヘルプデスク配属になる新沼初音ちゃん。二十五歳だそうだ」
「しかも女?」
技術部の一角で向かい合う俺と部長。
部長は俺の肩をポンと叩きながら、近くのデスクで書類をトントンとまとめている三笠を指さして笑った。
「そう、女の子だから三笠には任せられない。分かるだろ? だから頼んだぞ、九坂」
……笑い事じゃねーよ。
俺は憮然としたまま八つ当たりで三笠を睨む。
それに気づいた三笠はぎょっとした顔をしたかと思うと、椅子の後ろに隠れた。
「うわ、何ですか九坂さん。こっわー」
「うるせぇな。なんでもねぇよ」
「すぐ睨むんだから。そんな態度だと女の子から怖がられますよー」
「その“女の子”を面倒見なきゃなんねーんだ」
お前が女好きな為にな、と心の中で付け加える。
「マジすか? えーなんで俺のとこじゃないんだろ。俺ならじっくり面倒見てあげるのになぁ」
「部長に言えよ」
三笠は俺の一つ下だが、気が利いて面倒見がいい。だからよく新人は三笠の下につけられることが多い。
しかし、三笠が女関係にだらしないことも部長は了承済みで。そこを踏まえて今回は俺に頼んだんだろう。
理屈は分かる。しかし、感情は別だ。
女の新人の相手なんて、俺が最もしたくないことの一つだ。
イライラオーラを全身から発し続けて一日の仕事を終える。
その日、俺に近づいてくる奴はあまりいなかった。