桜雨、ふわり。
やっぱり無理だよぉぉぉおおお!
もう逃げ出したい!
森崎くんに、ずっと見つめられてるなんて、そんなの恥ずかしすぎる!
いたたまれない時間が流れ、ふと森崎くんは鉛筆を動かす手を止めた。
?
「森崎くん……?」
「……」
森崎くんの、黒目がちの瞳があたし捕えたまま離さない。
あちこちに跳ねた、無造作な髪。
その前髪の奥から、まっすぐに見つめられて、あたしは魔法をかけられたみたいに、息も出来なくなった。
「……」
そして、彼の唇が小さく動いた、そう思った瞬間だった。
ガラガラって美術室の扉が勢いよく開いて、弾かれるように顔を上げた。
そこには……。
「ここにいたんだ、探したよ」
花が咲いたような、可愛らしい声。
春のそよ風みたいに、小柄で可憐な少女が、躊躇なく美術室に足を踏み入れた。
森崎くんは持っていたスケッチブックを閉じて、椅子から腰を上げた。
それは、前に一緒に並んで歩いていた、あの女子だった。
「先生が呼んでたんだから、早く行かなきゃ。葉ってばまだ届出出してないんでしょ?」
「わかった……すぐ片づけるから、ナルミは先行ってて」
「ほんとだよー?」
なるみ……ちゃん?
名前まで可愛い……。
あたしに目もくれず、なるみちゃんは美術室を出て行った。
残されたのは、あたしと森崎くん。