桜雨、ふわり。
すっごく仲良さそうだったな……。
やっぱり同じ部活だし、きっとあたしの知らないふたりの時間があって……。
それで……。
森崎くんと、あんなふうに親しく話す女子、他にもいたんだな。
って、そんな事を考えてしまった。
しばらくの沈黙の後、閉じていたスケッチブックを開きながら、森崎くんはあたしを見降ろした。
「……横山さん……あのさ、」
でも……。
「あ!えっとそれじゃ、あたしはこれで!森崎くん、またお昼ね!」
あたしは怖かった。
彼女は、森崎くんを「葉」って呼んだ。
彼女の事も、「なるみ」って呼んでた。
でも、あたしは「森崎くん」だし、「横山さん」だし。
ちょっとずつだけど、近くなったと思った距離も、あの子に比べたら全然「他人」で。
怖くて、何か言いかけた森崎くんから逃げてしまったんだ。
どうして……。
どうして……?
あの時、あたしは彼の言葉を待たなかったんだろう。
逃げてしまったんだろう。
後悔って言うのは、その状況に置かれないとわからない訳で。
次の日、美術室に行ったら、森崎くんは来なくって。
すぐに冬休みになって、また会えない日が過ぎていった。
それでも、冬休みが明ければきっと。
そう思い、あたしは自分の受験にしっかり向き合おうと決めた。