桜雨、ふわり。
はにかむように、眉を下げてちょっとだけ小首を傾げて。
あたしを覗き込むように見つめると。
「ずっと、伝えたい事があったんだ」
甘い低音が、ジワリ、とあたしの心に落ちてくる。
それはまるで、今あたし達に降り注いでいる、この桜の花びらのように。
手を伸ばせば触れられる距離。
森崎くんの、油絵の匂いがする指先がそっとあたしの髪に触れた。
まるですべてがスローモーションになってしまったみたいだ。
森崎くんの真っ黒な髪がふわりと持ち上がり、その風はあたしの髪を揺らす。
光の中で微笑んだ森崎くんが眩しくて、泣きたくなる。
舞い降りていく桜の花びらは、溢れるあたしのこの想い。
前髪に触れた彼の手には、ピンク色の小さな花びら。
「ほんとはずっと、好きだったって」
森崎くんの手が、桜の花びらごとあたしを包みこむ。
優しくて
愛おしくて
大好きで
あたしは油絵の匂いのするその背中に、そっと手を回した。