桜雨、ふわり。
言えずにいた、たったひとつの言葉。
やっと、報われた、この春の日のまどろみのような、優しい気持ち。
ふわり
ふわり
そんな気持ちに誘われて、あたし達に降り注ぐ「好きの気持ち」。
油絵のする彼の匂い。
その胸にギュッと頬を押し当てて、スンと息を吸いこんだ。
「森崎くん、素敵な絵……ありがとう」
腕の中で小さくそう言うと、森崎くんは少しだけ距離をとってあたしを見降ろした。
「実はさ、あの絵、まだ不完全なんだ」
「え?」
そうなの?と首を傾げる。
だって、あの展示場に飾られていた絵は、すごく素敵だったのに。