白の離宮
今日,白の離宮にユリジュス将軍が任命証書を持ってルナ王女に謁見を願い出てきた。いよいよ,ルナ王女が軍人として王宮に伺候するのだ。

一方,ユリジュス将軍は白の離宮に住まわれているという貴人が誰なのかと不思議に思っていた。
‐貴人…。ソフィア王女様と同い年の女性…。もしや…私のカンに狂いがなければ,隠された存在の王女では…?‐

しばらくして,ユリジュス将軍は海底の間に通された。長椅子にゆったりと腰掛けているルナ王女を見て,ユリジュス将軍は息を飲んだ。アクア王妃に…ソフィア王女に…似ているからだ。艶やかなブルーブラックの髪,白い肌,瑠璃色の瞳。そして,涼やかな顔立ち。

「貴方がユリジュス将軍ですね。お越しをお待ちしておりました。どうぞお掛けになって」

扇子でルナ王女の正面の席を示しながら,着席を促す。

「国王陛下から,ソフィア王女様護衛の任命証書を預かって参りました。来週から任務に就任せよとの国王陛下のご命令です」

「ご苦労様です。…ところで…ソフィア王女様はいったいどんなお方ですの?お仕えするのにお人柄を把握しておかなくては失礼でしょ?」

扇子越しにユリジュスを見つめる。

「ソフィア王女様は,あなた様によく似たお方です。おっとりとしていてお優しく,ハープの演奏をお得意としております」

よく似ているが…このお方はどこか冷たい雰囲気をお持ちだ。不幸な生い立ち故なのか…?だが,ソフィア王女より美しいかもしれない。


司令官室に戻ったユリジュスは大きく息を吐いた。疲れた。ソフィア王女の前にいるときはそんなに緊張はしなかった。なのに…,ルナと名乗る貴人の前にいると緊張するのだ。来週から自分直属の部下となるのだ。気をしっかり持たなければ。



…ソフィア王女の居間…

「ねぇお母さま。今度私付きの護衛官がいらっしゃるって本当なのですか?」

瑠璃色の大きな瞳を輝かせながらアクア王妃の手をとる。

「ええ,本当ですよ。あまり失礼な態度はとらないようにね」

「わかっていますわ!お母さま。どんな方なのかしら…?素敵な方かしら?」

白く透き通るような頬をほんのり染めながら,新しく来る護衛官を想像する。

「年はあなたと同い年ですよ。お名前はルナ。女性です。護衛兼お話相手ですから,遠慮せずに話し掛けても良いのですよ」

アクア王妃は微笑みながら,ソフィア王女の髪をなでる。でも,胸の内は穏やかではなかった。

‐ルナ…。ソフィアは素直な娘です。おっとりとはしていますが,王女育ちのせいかわがままなところもあります…。私はそこが心配なのです。あなたの不幸な生い立ちを知っているから…。どうか,あなたの妹を憎まずに守ってやってください…‐

アクア王妃はアクアータの神殿で静かに祈りを捧げた。
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