僕のonly princess
Part.1
プロローグ
“…薫くん”
少し遠慮気味に小さく響く。
小さな鈴を転がしたみたいに、澄んでいてどんな音よりも心地いい。
ちょっぴり恥ずかしそうに。
でもとても愛しそうに。
俺の名前を呼んでくれる、君のその声が大好きだ。
そんな些細なことにも気付けない俺は、本当に馬鹿で愚かで。
君が与えてくれる温かさにも気付かない振りをして。
この闇から抜け出す術を見落とす。
たった一つ、君への気持ちに気付くだけでいいのに。
心に溢れるこの温かさの意味に気付くだけでいいのに。
それさえ愚かな俺は気付かない。
“…薫くん、好き”
君は俺を闇の中から救い出してくれるんだ。
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