僕のonly princess
「おい、鍋噴いてるぞ」
「え……わっ」
帰宅した私は夕食の準備のためにキッチンに立っていた。
そこに現れた勇也の声に驚いて、手元を見るとお味噌汁を作っている鍋が噴きだしていて。
慌てて蓋を取って火を止めた。
「……何ボーっとしてんだ。元々抜けてるのに、そんなんじゃ危なっかしくて任せてらんねぇ」
勇也はぶっきらぼうにそう言うと、私からお鍋の蓋とお玉を取り上げて、もう一度コンロの火をつけた。
「ごめん……」
私は小さく謝って、大人しく勇也に場所を譲る。
勇也の言う通り、こんな状態じゃ夕食だって美味しく作れるはずもなくて、そんな自分が情けなくなった。
「お前、まだあの男のことが忘れられねぇの?」
「え?」
お鍋をかき回す勇也は視線をお鍋に落としたまま、ボソッとした声で訊いていた。
急に訊かれて驚いた私は勇也の俯いた顔をじっと見る。
そんな私の視線に気付いたのか、勇也はお鍋から私へ視線を移した。
その顔は思ってもいなかったほど真剣な顔をしていた。