僕のonly princess
零れ落ちていく…
「……ただいま」
身体が重たい。
足を上げて玄関を上がるのさえ億劫に思うほど重たい。
何より、心が重くて息が詰まる。
最近、うまく呼吸できていない。
錯覚だってわかっている。
だって、こうして生きてるんだから。
生きている実感なんてこれっぽっちもないけど、それでも生きてる
ただ、生きてるだけだけど。
息苦しくて、俺はどうやって呼吸してただろうとボーっと思う。
でもその術を思い出せない。
息苦しい、重い心が堪らなく苦しい。
「薫、お帰り」
「にー……」
俺の足元に抱き着いてきた小さな塊が小さな声で俺を「にー」と呼ぶ。
その声に少しだけ。ほんの少しだけ息苦しさが解けた気がして、俺は細く息を吐き出して、足元にしがみつく小さな温もりを抱き上げた。
「理子ちゃん、ただいま。佐知も、ただいま」
柔らかくて温かい理子ちゃんからは、甘い香りがする。
俺の強張った心に滲みるその香りにホッとした。
廊下の少し先で理子ちゃんと俺を見ていた佐知が訝しそうに眉を顰める。
外では気を張って色々誤魔化せている俺も家ではそうもいかないらしい。
元々佐知は俺の変化に気付きやすいから、最近の俺の様子を心配してくれているんだろう。
佐知から心配そうな視線を注がれているのに気付かない振りをして、俺は理子ちゃんを抱っこしたままリビングへ向かった。