僕のonly princess


目的のデパートまでもう少し、という時。
横断歩道に差し掛かって、信号機が青になるのを待ちきれない勢いで私は繋いでいた母の手をぶんぶんと振り回していた。


信号機が青に変わった瞬間、私は勢いよく道路の向こうに向かって走り出した。


その時………


“パッパッー”という大きな音が鳴り、“キィ―――ッ”と聞いたことのないような音がしたと思ったら………


『危ないっ!!結花ぁぁっ!!!』


母の叫び声と“バンッッ”と何かがぶつかる大きな音が私の目の前で聞こえた。


何が起こったのか、わからなかった。


呆然と立ち尽くす私の目の前で、横断歩道を塞ぐように斜めに停まる一台の車。


その前で母が倒れていた。


周りにいた人が駆け寄ってきて、倒れている母や立ち尽くす私に声を掛けているけれど、何を言われているのかわからなかった。
目の前に停まる車から降りてきた若い男の人が私と同じように呆然と立ち尽くしているのを目の端に感じながら、私はただ、ボーっと、目の前で倒れたまま動かない母を見ていた。


< 141 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop