僕のonly princess
次に記憶にあるのは、白い壁と天井に囲まれた小さな部屋。
消毒液の匂いなのか、独特の匂いに包まれた部屋の白いベッドの横で私はパイプ椅子に座っていた。
目の前のベッドには、色んな機械を付けられた母が寝ていた。
「……マ、マ?」
掠れる声で小さく呼んでも母は目を閉じたまま動かない。
機械の音だけが小さな部屋に響いている。
「ママっ!!」
私は怖くなって大きな声を出して、ベッドにすがるようにして必死に母を呼んだ。
その私の声を聞きつけたのか、部屋にナース服を着た若い女の人が入ってきた。
「ママは今、一生懸命に頑張っているから。大丈夫だよ」
私を落ち着かせるように静かにそう言った看護師のお姉さんは、私をもう一度椅子に座らせて、母に付けられていた機械を確認した。
その時、『うぅ……』と小さな声が聞こえて、看護師のお姉さんが母の顔を覗き込む。
「鶴見さんっ、わかりますか?鶴見さん!」
看護師のお姉さんが呼びかける声に反応したらしい母を見て、看護師のお姉さんは『先生を呼んでくるわ』と言って、慌てて病室を出て行った。
私は座っていた椅子から飛び上がってベッドへ駆け寄る。
そして母の顔を覗き込むと、薄らと瞼を開けた母と目が合った。
「ママっ!!」
私の呼ぶ声に母が目を少し細めて微笑む。
その笑みが見たことのないほど儚くて、私はポロポロと溢れてくる涙を止めることができなかった。
管に繋がれた手をゆっくりと伸ばして、母はそんな私の涙をそっと拭ってくれた。
「結……花………ご、めん…ね。ずっと……愛…してる、から……」
苦しそうに途切れる小さな声でそれだけ言った母は、儚い笑みを浮かべたまま、私の頬に伸ばしていた手をパタンとベッドの上に落とした。
“ピィ――――”と高く鳴り響く機械の音が、止まることはなかった。