僕のonly princess
ショーの行われていた場所から移動した私達は、水族館のグッズやお土産が並んでいるショップを覗いていた。
たくさんの人達で溢れかえるそこは、みんなが今日の楽しい思い出の証(あかし)を探しているみたいで。
私はふと、ぬいぐるみの並んだ一角にいた一組の母娘(おやこ)に目が留まった。
小学生くらいの女の子と優しそうなお母さん。
イルカとペンギンのぬいぐるみを両手に持って、女の子がどちらを買おうか悩んでいる光景だった。
一生懸命に悩む女の子にお母さんは何か話しかけていて。
そのお母さんの優しい表情を見て、私の胸にチクリと微かな痛みが生まれた。
……私と一緒にいたママもあんな風に優しく笑っていてくれただろうか。
あの頃は自分の母親の表情を客観的に見る術などなくて、それが当たり前のことだと思っていたけれど、亡くして初めて普段の母の優しさがかけがえのないものだったと気付いた。
きっと、ママも私をあんな風に優しく見つめてくれていたはず。
疲れたような顔しか思い出せないけれど、それでも母はとっても優しかったから。
「……いか、結花?」
「……え?」
気付くと私の顔を覗き込むように、薫くんが心配そうな声で私の名前を呼んでいた。
いけない、ついボーっと見てしまっていた。
「ご、ごめんね。何でもないよ」
薫くんの心配そうな顔を見て、申し訳なくなった私は薫くんににこっと笑いかけた。
「……そう?」
それでも薫くんは半信半疑な顔で私を見つめている。
せっかくのデートなのに、薫くんに心配を掛けちゃうなんて私ったら何をやってるんだろう。