僕のonly princess
「今日は楽しかったね」
ずっと繋いだままの手を薫くんがギュッと握って、にっこりと笑ってくれる。
それに私も笑い返して、大きく頷く。
「うん、とっても楽しかった。また行きたいな」
「また一緒に何度でも行こうよ」
当たり前のようにそう言ってくれる薫くんの言葉が嬉しくて、私は嬉しさを溢れさせた笑顔で頷いた。
「結花の乗る電車、もう来る時間だね。送って行くよ」
「……あ、……うん、でも」
待ち合わせたいつもの駅で電車を降りて、薫くんが当然のように言ってくれる。
その言葉に私はいつものように戸惑いを見せてしまう。
毎回、こうして送ると言ってくれる薫くんに何かと言い訳をして、私はいつも断ってばかり。
こんな風に断ってばかりいては、薫くんが怪しんでしまうとわかっていてもどうしても正直に告げられない私がいる。
どうしようと思いながら、薫くんに手を引かれて私の乗る電車が来るホームへ向かう。
薫くんはきっと、私の戸惑いに気付いている。
薫くんは元々、とっても頭がよくて察しのいい人だから。
私の態度の変化に、気付いていて当然だ。
でも……まだ、私には薫くんに送ってもらう勇気が出ない。
送って行ってくれた先が普通の家じゃないと薫くんに知られることも。
どうして私がその場所に住んでいるのかを薫くんに話すことも。
自分の置かれている状況を恥じているつもりはないのに、薫くんにどう思われるか……それが気になって勇気が出せないんだ。