僕のonly princess
「……結花?」
階段を上がって、ホームについたところで不意に名前を呼ばれた。
びっくりして振り返ると、そこにいたのは勇也だった。
「勇也……今日、出掛けてたの?」
「ああ。そう言うお前はデートか?」
「え……うん」
一見、無表情でそう訊ねてくる勇也の目の奥に私をからかうような色を浮かべているから、思わず恥ずかしくなって、私は素っ気なく頷いた。
そんな私の手を薫くんがギュッと強く握り締めて、私はびっくりして隣に立つ薫くんに視線を向けた。
見上げた薫くんの顔は真顔で。
目の前に立つ勇也をじっと見つめている。
薫くんがどうしてこんな顔をするのか私にはよくわからなくて、驚きで瞬きをしながら二人を交互に見つめた。
「……倉石くん。久しぶり」
「ああ」
「あの時は色々ありがとう。でも倉石くんが心配してくれることはもうないから」
薫くんの真剣でどこか冷たい声で発せられる言葉の意味がわからなくて、私は無言でその会話を聞いている。
勇也には薫くんの言葉の意味がわかったのか、フッと微かに笑って小さく頷いた。
「結花を見てればわかる。まあ、でも次はねぇから……その辺覚悟しておけよ」
勇也はどこか薫くんを挑発するような言い方でやっぱり私には意味のわからないことを口にした。
「そんな心配も必要ない」
薫くんはいつもとは全然違う鋭い視線を勇也に向けてそう、はっきりとした口調で言い切った。
「そうか。だったら、いいんじゃねぇ?」
ニヤッと笑う勇也と、真顔のままの薫くん。
対照的な二人を私はハラハラしながら見つめているだけだった。