僕のonly princess
そこに私と勇也の乗る電車がホームに入ってきた。
薫くんは当たり前に私の手を引いて、その電車に乗ろうとする。
だけど、その瞬間、私は繋いでいた薫くんの手をパッと放して、目の前の勇也の隣に立った。
「薫くん、勇也がいるからここで大丈夫だよ。今日は本当に楽しかった。ありがとう」
「え?結花?」
突然手を離した私に薫くんは怪訝な顔をして、勇也と私へ近づこうとする。
それを拒否するような形で私は隣に立つ勇也の袖を引っ張って、開いた電車のドアに乗り込んだ。
「薫くん、またね」
薫くんはそんな私の行動に驚いた顔をして、足を止めた。
そのままドアが閉まって、呆然としたままの薫くんを残して私達を乗せた電車はホームから滑り出した。
私はホームに残る薫くんにぎこちない笑顔で小さく手を振った。
でも薫くんは呆然としたまま、悲しそうな顔で私を見ているだけだった。
せっかく楽しかった1日を台無しにしたんだと、遠ざかって行く薫くんのその悲しそうな顔を見つめながら、私は激しい後悔に襲われていた。
「……お前、何やってんの?」
薫くんの姿がすっかり見えなくなった頃、隣に立つ勇也が呆れたように声を掛けてきた。
「……うん」
さっきの薫くんの悲しそうな顔が頭から離れない私は、私を責めるような勇也の言葉に小さく頷くことしかできない。
「アイツ、絶対変な勘違いしてるぞ。さっきだってあんなに俺を牽制してきたのに、当のお前があんな態度取ったら、誤解するなって方が無理な話だろ」
「……うん」
「はぁ……」
勇也の言葉に頷くだけの私に勇也は面倒くさそうな溜息を吐いた。