僕のonly princess
二人で駅前のカフェに入った。
この場所は昨日俺が前の彼女と別れたところ。
ゆいかちゃんはそんなこと知るはずもない。
俺も普段はそんなことを気にする性格でもないのに。
…なぜか今日は少し落ち着かない気分だった。
窓際の席に座って、テーブルに置いてあったメニューをゆいかちゃんに渡すと、彼女はちょっと思案顔で真剣にメニューと睨めっこしていた。
一番最後に載ってるケーキの写真に、ゆいかちゃんの視線が動かなくなった。
「ここのケーキは甘すぎなくてどれも美味しいよ」
あんまり真剣に悩んでいるから、可笑しくなって笑い出しそうになるのを我慢して、声をかける。
ゆいかちゃんは俺の言葉にハッとして、恥ずかしそうに目元を赤く染めた。
「…じゃあ、チョコレートケーキと紅茶で」
そして、メニューから目線だけ上げて、小さく呟いた。
「了解。俺はレモンタルトとコーヒーにするね」
恥ずかしがるゆいかちゃんに笑顔で頷いて、俺は近くにいた店員さんを呼んだ。
ゆいかちゃんと自分の分とを注文して、店員さんがテーブルから離れていくのを横目で見ながら、向かい側のゆいかちゃんに視線を戻した。
「…私、こういうところあんまり来なれてなくて。ごめんなさい」
さっきの態度がやっぱり恥ずかしかったのか、ゆいかちゃんは向き直った俺に小さく頭を下げる。
「そうなんだ。でも全然謝るようなことじゃないから気にしないで」
眉を下げて申し訳なさそうな顔をしていたゆいかちゃんは俺のその言葉に少し、ホッとして小さく息を吐いた。