僕のonly princess
デートの度に家に送って行くという俺の申し出を断る結花。
さすがの俺でもそこには何か『意味』があるんだと気付いていた。
結花の『家』のことは家族の話題を含めて、一度も聞いたことがない。
そういう話題になると明らかに気分が沈む結花のことは、すごく気になるし、何かあるなら話してほしいと思うけれど、結花のその反応を見ていると無理強いすることはできないと思った。
いつか結花から話してくれるだろうと、俺はそれをずっと待っている。
毎回、切っ掛けになればと思って、結花が困ってしまうことを承知で家まで送ると言ってみるけれど、結花はやっぱり困った顔をしてそれを断るだけだった。
今日はいつもよりずっと特別なデートになったから、今日なら俺の申し出も断られないかもしれない。
結花から話して聞かせてくれるかもしれない。
そう思って結花の乗る電車の来るホームへ向かったのに……
どうして君は俺の手を離して、彼の手を取ったの?
倉石くんがその場にいたことは偶然だろうけど、俺じゃなく、彼の手(正確には袖だけど)を取って電車に乗り込んでしまった結花に、俺は一瞬、起こっていることが理解できずに固まってしまった。
ホームに残る俺にぎこちない笑顔で手を振る結花を呆然と見つめながら、心が痛くて手を振りかえすことなんて出来なかった。