僕のonly princess
倉石くんは結花のことを知っている。
俺の知らない、結花が俺には話してくれないことを知っているんだと思う。
それだけで胸の中がグチャグチャになるくらい嫉妬心でいっぱいになる。
結花は俺よりも倉石くんの方がいいのか?
なんて、そんな馬鹿な考えまで浮かんできてしまう。
結花が好きだって言ってくれるのは俺だと信じているのに、グチャグチャになった心はその自信さえも消し去ろうとする。
やっぱり“恋”って苦しい。
幸せで心が温かくなる半面、小さなことでも不安になって痛みを生む。
佐知の時に感じていたものとは異質の痛みだけど、それでもやっぱり苦しいことには変わりない。
「あぁっ、もうっ……」
帰宅して閉じ籠っていた自室で、不安と嫉妬でグチャグチャになった心を持て余していた俺は、苛立ちに任せて手に持っていたスマホをベッドに放り投げた。
結花に連絡しようと思ってスマホを手に取ったのに、メールにしろ電話にしろどう接すればいいのかわからなくなっていた。
スマホに付けた淡いピンクのイルカが部屋の明かりに照らされて、キラリと光った。
トントントンとドアをノックする音がした。
「薫、入るわよ」
その声と同時に開いたドアから顔を覗かせたのは、佐知。
佐知は言葉のとおり、俺の返事も聞かずに部屋へ入ってきた。
「……何?」
俺も佐知には気なんて遣わないから、つい機嫌の悪い声で刺々しく訊いてしまう。
佐知はそんな俺に意味ありげな笑みを浮かべた。