僕のonly princess
「おい、そこのバカップル。こんな公衆の面前でイチャついてんな」
その時、薫くんの背中の方から聞いたことのない男の子の呆れた声が聞こえて、私はびっくりして「キャッ」と言って薫くんの背中に回していた手を離した。
「……はぁ~。忠、今いいところだって見ればわかるだろ。邪魔すんな」
でも薫くんは私を抱き締めたままの恰好で顔だけを後ろに向けて、鬱陶しそうに言い返す。
私はここが駅の前だと言うことをやっと思い出して、真っ赤になる顔を上げることもできずにオロオロとし出した。
「ほら、忠のせいで結花が怖がってる」
「か、薫くん、私は別に……」
薫くんがお友達らしい人に機嫌の悪い声でそんな風に言うから、私は余計に慌ててしまう。
薫くんはそんな私にやっぱり優しい顔をして、『ごめんね』と微笑んでくれた。
「ふん、幸せボケしてる薫が悪い。でも、怖がらせたんなら、ごめんな?結花ちゃん」
薫くんの影から顔を覗かせた男の子がニヤッと笑って私に声を掛けてくれた。
私は恥ずかしさも相まって、小さく『大丈夫です』と言うのが精いっぱいで。
「うわぁ、マジ可愛い」
お友達はなぜか嬉しそうに笑って、私をまじまじと見る。
でもすぐに薫くんがお友達と私の間に立ってしまって、私は薫くんの背中に隠れるような格好になった。