僕のonly princess
「忠……お前、殴られたいの?」
薫くんの声が聞いたことのないくらい低く響いて、私はびっくりして薫くんの背中を見上げた。
背中しか見えないから薫くんがどんな顔をしているのかわからない。
でも忠くんと呼ばれた男の子は急に『ぶっ』と噴出して笑い出した。
「薫でもそんな風になるんだな。いやいや、面白い」
「忠……」
笑い続ける忠くんとますます機嫌の悪くなる薫くんのやり取りにハラハラし出した頃、また別の男の子の声が二人の向こうから聞こえてきた。
「忠、いい加減にしないと薫に本気で後から仕返しされるぞ。今日、肉食べさせてもらえないかも」
「え!?いや、それは困る!薫の家のバーベキューなら絶対いい肉が出てくるはずだからすげぇ期待して朝飯抜いてきたのに!!」
「へぇ、だったら忠はピーマンばっかり食べればいいよ」
「えっ、それは無理だろ!薫、ごめん!からかい過ぎた。反省するからピーマンは勘弁して!!」
「ぷっ。あははっ」
いきなり切り替わった子供っぽい会話に思わず吹き出して、笑ってしまった。
お肉を食べさせてもらえないとか、ピーマンばっかり食べればいいとか……ホント、子供みたいで可笑しかった。
こんな言い合いをする薫くんたちはきっと、とってもいいお友達同士なんだろうと思って微笑ましくなった。