僕のonly princess
「いや、でも……」
薫くんが本郷さんを振り返って申し訳なさそうに言葉を濁す。
吾郎くん達も送ってくれると言う本郷さんに戸惑いの表情を浮かべた。
「遠慮することはないよ。私も帰るついでだからね」
柔らかい口調なのに、どこか押し切るような雰囲気を醸し出して、本郷さんはにっこりと笑った。
私は自分の顔が強張っているのを感じるけれど、それを和らげることはできない。
「せっかくだから送ってもらいなさい」
いつの間にかそばに来ていたおじさまの言葉に、薫くんも吾郎くん達も遠慮気味の表情のまま頷いた。
「結花、家に着いたら連絡してね」
本郷さんの車に渋々乗り込んだ私に見送りに出てくれた薫くんは車の窓から覗き込んで、私に優しく笑いかけた。
「……うん……今日は本当にありがとう。…またね、薫くん」
憂鬱な気持ちになってしまうのを隠せない私は、薫くんの瞳を見つめてぎこちなく笑い返した。
ゆっくりと走り出す車の窓から見送ってくれる薫くんは心配そうに顔を曇らせていた。
そんな薫くんの姿が見えなくなって、私は小さく溜息を吐いた。
本当はこの後、送ってくれると言った薫くんに時間をもらって話をしたいと思っていた。
薫くんに隠していることをちゃんと伝えようと決心していたのに。
でも……
予想外に現れた本郷さんに私の心は乱れていたから、薫くんにうまく伝えられたかどうかはわからない。
それでも薫くんに伝えたいと思った気持ちに偽りはない。
薫くんに何度もああやって心配そうな顔をさせてしまうことももう嫌だった。
だからやっぱり今日、伝えたかったのに。
どうしてうまくいかないんだろう。
流れる景色をただ見つめながら、私はもう一度さっきよりも大きな溜息を吐き出した。