僕のonly princess
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あれは私が中学3年生だった夏の終わり。
そろそろ志望校を決めて、本格的に高校受験の準備を始めようと思っていた頃。
とは言え、私立なんて元々頭にはなかったから、勇也と同じ一番近くの公立高校にしようと私は思っていた。
そんな私がまさかお嬢様学校で有名な清稜女学院に行くことになるなんて、あの日まで思ってもいなかった。
あの人がふたば園を訪ねてきたのは突然だった。
学校から帰ると園の前に見知らぬ黒い高級車が停まっていて。
何だろうと思いながら、その横を通り抜けていつものように玄関に入るとバタバタと足音を立てて、一人の先生が慌てた様子で走ってきた。
「結花ちゃん!結花ちゃんにお客様が来てるの。園長先生のお部屋に急いで」
先生は私のそばに駆け寄って早口でそう言うと、訳のわからない私を急かすように園長室へ連れて行った。
面喰っている間に園長室のドアの前まで連れてこられて、そのまま先生がノックして開けたドアの中に入れられた。
「お帰りなさい。結花ちゃん」
状況を飲み込めずドアのそばに立つ私に、園長先生がにっこりといつもと変わらない優しい笑顔で声を掛けてくれた。
それにハッとして、「えぇっと・・・ただいま」と呟くように答えた私はこちらをじっと見る視線を感じて、園長先生の前に座っている人に顔を向けた。
園長先生の前に座っていたのは、かっちりとしたスーツを着た男の人で。
年齢は学校の友達のお父さんより少し若いくらい?
かなり整った顔立ちをしている分、実年齢がわかりづらい。
どちらにしても落ち着いた大人の男の人だというのが、私のその人に対する第一印象だった。
そう、この時まではそんなことを考えられるくらいの余裕が私にはあった。
園長先生の口からこの人が誰なのかを聞く、その瞬間までは。