僕のonly princess


「すまない。大きな声を出して。でも誤解しないでほしい。美雪が妊娠したから私達は別れたわけではないんだ。美雪は……妊娠したことは何も告げずに、私の前から姿を消してしまったから」


「………」


悲痛な面持ちで絞り出すように話す本郷さんの言葉に私は意味がわからなくて、眉を顰めて口を噤んだ。


「美雪が妊娠して、出産していたと知ったのはごく最近なんだ。……美雪が事故で亡くなったことも最近知った。でも君が生まれた時期を考えると父親は私以外にはいないんだ。美雪が君を身ごもったから私の前から消えた……そう考えれば、どうして美雪が突然私の前から消えたのかも理由がつく」


「どうして母は妊娠したからといって、あなたの前から消えるんですか?普通なら結婚を考えるんじゃないんですか?」


私のこの疑問はごく当たり前のものだと思った。
二人が真剣に付き合っていたなら、当然、妊娠すれば結婚という形を取るのが自然だ。
なのにどうして母は妊娠したことさえ告げずに、消えなければいけなかったのか。
私はまったく理解ができなかった。


「当時私には父から勧められていた結婚話が出ていた。もちろん私には美雪以外の女性と結婚する意志などなかった。でも……美雪は自分の実家のことで引け目を感じていたから自分が身を引いた方がいいと考えていたんだ」


「……どういうことですか?」


初めて聞く話ばかりで頭が混乱していた。
母の実家のことも、私は何も知らない。


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