僕のonly princess
エミリちゃんに手を握られて、びっくりしつつも笑顔のままそれを受け入れている薫くんとほんのり頬を赤くして薫くんを見つめているエミリちゃんに、私はズキッと心が痛んだ。
エミリちゃんの真意はわからない。
帰国子女のエミリちゃんだからこれくらい積極的な態度は友達に対して当たり前のことなのかもしれない。
でもエミリちゃんの薫くんを見つめる瞳も満面の笑みも私には彼女の薫くんへの特別な気持ちを感じさせる。
私はそんな心を襲う不安のせいで、二人から視線を逸らして俯いてしまった。
「……結花?」
薫くんは私の変化にすぐに気付いて、声を掛けてくれた。
心配そうなその声に顔を上げると、薫くんはやんわりとエミリちゃんの手を離した。
そして彼女の後ろにいた私のそばへ近づいて私の髪をくしゃっと優しく撫でて、にっこりと笑った。
「久しぶりの学校で疲れちゃった?ゆっくりお茶でもしようか」
態度のおかしい私を気遣ってくれる薫くんの優しい提案に私は鼻の奥がツンとして、泣きそうになった。
それをグッと堪えて、私も笑顔で頷いた。
「私も一緒に行ってもいい?」
「……え?」
エミリちゃんはなぜか薫くんの腕に手をのせると、笑顔で薫くんを見つめて当然のように訊ねた。
そんなエミリちゃんに戸惑いを見せる私の代わりに、薫くんはエミリちゃんの手をそっと離して首を左右に振った。
「ごめんね。デートだから一緒に行くのは遠慮してもらえるかな」
「でもっ」
「エミリちゃん、友達ができて結花もとっても嬉しいと思うんだ。だから学校ではこれからも仲良くしてあげてね。結花は俺の大切な子だから」
諦められない様子のエミリちゃんに、薫くんは笑顔のままエミリちゃんの言葉を遮ってはっきりとそう言ってくれた。
柔らかい口調だけど、その裏にエミリちゃんを牽制するような強さがあって、笑っているはずの薫くんの瞳はとても真剣だった。
「……わかったわ」
エミリちゃんは一瞬、顔を歪ませて薫くんを真っ直ぐに見つめると、そのまま私達の前から去って行った。