僕のonly princess
「行こうか、結花」
「……薫くん、ごめんね」
「どうして結花が謝るの?結花は何も悪いことなんてしてないだろ」
優しく私の手を引いて歩き出そうとする薫くんに私が小さな声で謝罪の言葉を口にすると、薫くんは繋いでいない方の手で私の髪を撫でて、笑いかけてくれた。
「でも……」
「結花は友達ができて嬉しかったんだろ?」
「うん……今日初めて会ったのに、色んな話ができてとっても楽しくて……エミリちゃんは私にないものをたくさん持ってる女の子だから友達になれて嬉しかったの」
薫くんに訊かれて私はエミリちゃんと過ごした短いけれど、楽しかった時間を思い出していた。
エミリちゃんはつい、壁を作りがちな私にその壁を作る暇を与えないほど、楽しくて素敵な女の子だ。
そんな彼女に“友達”だと言われて、本当に嬉しかったんだ。
「結花にだって誰にも負けない素敵なところがいっぱいあるよ。俺にとってはそんな結花が誰よりも一番素敵な女の子だよ」
「薫くん……ありがとう」
その後、薫くんと一緒にいつのカフェでお茶をして、いつもの時間に帰ることになった。
駅の改札口を抜けて、私は今日こそ薫くんに私の話をしなきゃと思っていたのに、結局何も話せなかったことを思い出した。
今日も『送る』と薫くんに言われたらどうしよう。
まだ何も話していないのに、送って行ってもらう勇気がない。