僕のonly princess
俺の知ってる本郷さんはこんな顔をするような人じゃない。
経営者として常に自信と責任を背負って堂々としている人で、こんな風に不安そうな表情を他人に見せる人じゃないと思う。
でも今、俺の目の前にいるのは経営者としての彼ではなく、最愛の娘との複雑な関係に悩むただの父親なんだ。
結花、安心していいよ。
君のお父さんは君をちゃんと心から愛しているよ。
目の前で不安な色を浮かべたままの本郷さんを見ながら、俺は思わず小さな笑みが零れた。
「薫くん?」
つい笑ってしまった俺を訝しそうに見る本郷さんに笑顔のまま「すみません」と謝って、俺は緩んだ表情を真剣なものに戻した。
「本郷さん、結花としっかり向き合ってもらえませんか?他人の俺がこんなことを言うのはお節介だと思われるかもしれませんが、今の本郷さんと結花はちゃんと向き合って、話をするべきです。本郷さんの偽りのない気持ちを知れば、結花だって自分に素直になれるはずです」
「……薫くん、君は結花ちゃんのことをよくわかっているんだね」
自嘲気味な笑みでそう言った本郷さんは、どこか複雑そうな苦い顔をしていた。
それは娘を想う父親の感情なのか。
もしくは、今はまだ娘の結花と気持ちを通じ合わせられていない焦りなのか。
「いいえ。そんなことはないですよ。まだまだ知らないことの方が多いです。でも俺は彼女のことを誰よりも知りたいと思うから。ちゃんとわかってあげて、俺が守っていきたいと思うから。だからそのためなら何だってできるし、してあげたいって思うんです」
真面目な顔でそう言った俺に本郷さんは目を丸くした。
そして、フッと表情を緩めて優しく笑った。