僕のonly princess
そんな私達を見ていた本郷さんが小さく笑い声を上げた。
その声に本郷さんを振り返ると、微笑ましいものを見るように目を細めて薫くんと私を眺めていた。
「父親の私に抱き締められていたことが謝罪の対象になるとは、薫くんの結花ちゃんへの溺愛はすごいな」
「え、いえ…だからそれは薫くんの冗談で……」
「ん?そうかい?薫くんは本気で言っていたと思うけど。ね?」
「そうですね。確かに父娘(おやこ)のハグとは言え、俺以外の男が結花を抱き締めるとかありえませんね。でも父親の愛情表現だったとわかっていますので、それは我慢します」
「か、薫くん!?」
しらっと笑顔で答えた薫くんに私はびっくりして赤面しながら声を上げた。
本郷さんは薫くんのその答えに『ハハハッ』と大きな笑い声を立てた後、フッと表情を和らげて
「未熟な父親だが娘の恋人という存在はやっぱり寂しい気持ちがするものだね。でも薫くんでよかったよ。君の気持ちの大きさは十分私にも伝わっているからね」
少し切なそうに目を細める本郷さんに、私まで心がチクッとした。
今までこんな風に思ったことはないけど、本郷さんが……お父さんが私を大切に思ってくれている気持ちが表れているような気がして嬉しくなった。
「はい。これから結花のお父さんである本郷さんに認めてもらえるように、もっと頑張ります」
笑顔から真剣な顔つきになった薫くんは真摯な声で宣言するようにそう言った。
「楽しみにしているよ」
本郷さんは穏やかに笑って、満足そうに答えた。
そんな二人のそばで、私は今、自分がどれほど幸せなのかを噛み締めていた。
私のことを大切に思ってくれている人がいる。
それは胸を詰まらせるほど幸福なことだ。
母が亡くなって以来忘れていたその幸福感に私は満たされていた。