僕のonly princess
「結花ちゃんは優しいね」
遅くなったお昼を食べるために入ったパスタ屋で注文を終えた俺は、さっきの結花ちゃんの行動を思い出しながら笑顔で呟いた。
「……そんなことないよ」
そう言って微笑む結花ちゃんはきっと特別なことをしたとは思っていない。
でもあんな風に迷子の子に駆け寄って、優しく気遣いができるのは誰にでもできることじゃない。
俺がそう言うと、結花ちゃんは少し照れたようにはにかむ。
そして「それに…」と言って、柔らかく微笑んだ。
「江本くんも優しいよ」
「俺?俺は全然。さっきだって何もできなかったし」
ちょっとびっくりして首を振ると、結花ちゃんは笑顔を深めて小さな声で話し出した。
「ちょうど1年くらい前のこんな雨の日に初めて江本くんを見かけたの。道端に捨てられてた子犬に傘を差しかけて、話しかけてた。とっても優しい顔をしていて……私、思わず立ち止まって江本くんから目を離せなくなってた」
「………」
結花ちゃんが優しい顔をして思い出すように静かに話したその内容に驚いて、俺は瞬きを繰り返して彼女の顔を見つめた。