僕のonly princess
それが崩れたのは、俺が9歳の時。
佐知は16歳で高校生になっていた。
その年、佐知に初めて彼氏ができたんだ。
信じられなかった。信じたくなかった。
佐知が誰かのものになるなんて。
こんなに佐知のことを好きなのに、俺よりも佐知のことを好きな男なんてこの世にいないと思っていたのに。
佐知が俺じゃない男を選ぶなんて、到底受け入れられるはずもなかった。
年齢を重ねるにつれて、佐知はどんどん綺麗になっていった。
少し癖のある栗色の髪は、柔らくて甘い匂いがした。
白い肌もパッチリとした二重の目も口紅なんか塗らなくてもピンク色した唇も。
すべてが俺の心を揺さぶる。
だけどそれは俺のものじゃない。
佐知の隣で当然のようにその手を握る男のもので。
それを見ていることしかできない俺はずっとずっと嫉妬に心を焦がしていた。
どうして佐知は俺の姉になってしまったんだろう。
両親の事故はどうしようもない不幸なことで、一人になってしまった佐知を養女として引き取った自分の親の事情も気持ちも俺だって理解できていた。
だけど、佐知が姉じゃなかったら。
佐知と7歳も年齢が離れていなかったら。
俺も佐知に男として見てもらえたかもしれないのに……と自分勝手な気持ちはどうしようもなくて。
俺は中学に上がる頃にはすっかり陳ねたガキになっていた。