僕のonly princess
佐知への気持ちは薄れるどころか増す一方で。
だけど叶うことのない気持ちは行き場がなくて、言い寄ってくる女の子と適当に遊んで解消しているつもりが、余計に佐知への気持ちを膨らませていた。
きっとそんな俺の心を佐知は見抜いていたんだ。
俺が中学2年になった夏休みのあの夜。
親は二人ともいなくて、家には佐知と二人だけだった。
21歳で短大生になっていた佐知はその日、サークルの飲み会だとかで夜遅くに帰ってきた。
成人して、時々こうやって少し酔った顔をして帰ってくる佐知に理性を崩しそうになることが何度もあった。
その夜も赤い顔をしてリビングのソファーで水を飲んでいた佐知は、いつもよりも数段色気が増していて、風呂から上がった俺に座ったままの上目づかいで『ただいま』と言って笑った。
たったそれだけのことなのに、その瞬間、ギリギリで保っていた理性がプチンと切れた。
気付いた時には佐知をソファーの上に押し倒していた。
驚いて息を呑んだ佐知が俺の手にそっと触れて、俺の下でとても悲しそうな目をしてあの言葉を告げた。
『養女の私を本当の娘のように思ってくれているお父さんとお母さんを悲しませるようなことはしたくないの』
『薫は私の大切なたった一人の弟よ』
俺の目を凛とした瞳でしっかり見据えて、小さいけれどはっきりとした声でそう言った佐知は悲しそうに顔を歪めていた。
佐知のその言葉に俺の心は氷のように冷たくなった。
そのまま無理やり奪い尽くしたい衝動と佐知の悲しそうな顔をそれ以上見ていたくない気持ちと……グチャグチャになった心で俺は佐知の前から逃げ出した。
こんなに好きなのに。
欲しくて欲しくて堪らないのに。
心が痛くて苦しくて、踠くほど好きなのに。
佐知は俺のものにはならない…―――――