僕のonly princess


それから半年ほどたった頃、母さんから佐知は短大を卒業すると同時に結婚して、アメリカに行くと知らされた。


その時佐知と付き合っていた男が父さんの経営する会社の社員なのは知っていた。
その男がアメリカ支社に転勤になるのに佐知もついていくことになったからと、母さんはとても嬉しそうに話していた。


周りから期待されるエリートサラリーマンらしいその男のことを両親も気に入っていて、佐知との結婚も快諾したらしい。


家族みんなが喜ぶ中、荒んだ心で祝えるはずもない俺は、一人、蚊帳の外で傍観していた。


佐知の嬉しそうな笑顔は、俺の心を冷たくするだけだった。




あっという間に短大を卒業して、あっという間に結婚して、あっという間にアメリカに旅立った佐知。


あの夏の夜、佐知の告げた言葉と悲しみに満ちた顔が忘れられなくて。







―――――…夢の中でも佐知は悲しそうに俺に告げる。






『薫は私の大切なたった一人の弟よ』






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