僕のonly princess
佐知の帰国の知らせと昨夜久しぶりに見たあの夢のせいで、学校まで向かう足取りがいつになく重たい。
俺の気持ちをそのまま映し出しているその重い足取りでも学校には着いてしまうもので、目に入ってきた周りのいつもと変わらない朝の風景に溜息を一つ落として、気持ちに蓋をした。
教室に入ると吾郎と忠が挨拶をしてくる。
それに笑顔を貼り付けて答えると、吾郎が首を傾げて真顔で俺を見てきた。
「薫、今日は元気ないみたいだけど大丈夫か?」
「え?」
思ってもみなかった吾郎の言葉に俺は一瞬、驚いて貼り付けた笑顔が崩れそうになった。
「……大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから」
それでも何とか表情を保って答えた俺に吾郎は心配そうな顔をする。
「そうか?あんま無理するなよ」
「……ありがとう」
吾郎ってこんなに勘のいいヤツだったかな?
真面目でちょっと抜けてるけど、本当はものすごく頼りになる男なのは知ってる。
だけど抜けてる分、鈍感なところがあってそこも憎めないこいつのいいところだと思っていたのに。
そんな吾郎にわかってしまうほど、今の俺は危ういんだろうか?
それともキヨ先生と恋愛して、吾郎の何かが変わったのだろうか?
……後者だとすれば、何だかとても羨ましいと思う。
そんな風に自分を変えられるような恋は俺には無縁のものだから。
でも。
こんな時に浮かんでくるのは佐知のあの悲しそうな顔と……
今日はなぜか結花ちゃんの優しい笑顔だった。
さっきからどうしてこんなにも彼女のことを思い出すんだろう。
どうしてこんなにも、結花ちゃんの笑顔が見たいんだろう。
いつの間にか俺の頭の中を占めているのは、佐知の悲しい顔ではなく、結花ちゃんの笑顔だった。