僕のonly princess
「……江本くん?」
心の中で顰めっ面をしながらも、表面上は笑顔を保って適当に話を合わせていた俺の耳に、小さな声が届いた。
周りの騒がしい女の子達のどの声よりも澄んでいて、耳に心地いい声。
「結花ちゃん、おかえり」
「「「え!?」」」
俺の言葉に周りにいた女の子達が驚きの声を上げたけれど、そんなことはお構いなしに目の前にできた人垣から抜け出して、俺は少し離れたところにいる結花ちゃんに近づいた。
びっくりし過ぎたのか結花ちゃんは大きな目をもっと大きくさせて、何度も瞬きを繰り返している。
俺の見たかった笑顔じゃないけど、その驚いた顔も可愛いから、俺は自然と結花ちゃんに笑いかけた。
さっきまでの作った笑顔じゃない、素の笑みが顔に浮かぶ。
「ど、どうしたの?今日は約束は……」
「してなかったけど、結花ちゃんに会いたくなったから来たんだ。ダメだった?」
俺の顔を見上げていた結花ちゃんが頬を少し赤らめながら聞いてくるのが可愛くて、彼女の言葉に被せるように言って、俺はわざと首を傾げながら眉を下げた。
「そんな!……ダ、ダメなんてことないけど」
「ホント?よかった」
赤い顔を更にもっと赤くして、慌てて否定してくれる結花ちゃんにパッと表情を笑顔に変えて、俺は無意識のうちに目の前の結花ちゃんの小さな手を握っていた。